僕は今営業チームのリーダーとして数名の精鋭たちと仕事をしているんだけど。ベトナムであるがゆえ、採用は右も左もわかりません。と赤子のようなスキルしかないので営業マネージャーの経験があるオフィスマネージャーに採用から試用期間終了まで面倒を見てもらっている次第。先月、試用期間で入社したベトナム人の男は採用決定時の評価は高く、「あんなに英語がうまく喋れるベトナム人はなかなかいないし頭もキレッキレ」という話だった。実際にチームに配属されるとたしかに英語は僕の数段上を行っており頭もいいしビジネスセンスもあった。社内のビジネスコンテストがあって。「うちのチームから優勝アイデアを出そう!」とみんなでアイデアを持ち寄った。僕は案外マジで将来の食い扶持を会社の金で作ってやろうと渾身のアイデアを3つも持ってきた。他のメンバーは1本ずつ。これは僕がもらったなと大人気なくウキウキしていたが、彼の新人男のアイデアが見事1位を射止めた。僕は表立っては「さすが!よくやった!!」と褒めちぎったが。心の中では泣いていた。圧倒的敗北。その彼にビジネスが日本の本社の決済も通って実現したら責任者になりたいか?と聞いたところ彼はうれしそうに頭を立てに振っていた。オーストラリア留学した時に見たITサービスでベトナムにも取り入れたいんです。と目を輝かせていた。まさにその翌日、彼はクビになっていた。朝、デスクに着席するとピコーンとスカイプが立ち上がり、オフィスマネージャーからのメッセージである。朝からなんだよこっちはYahoo!ニュースのエンタメ欄をチェックしなければならないのに。「あいつは私の逆鱗に触れたので、クビにしました」。個人的理由。ビジネスに私情は持ち込まないでくださいってあんだけ言うたやないですか姐さん!そうオフィスマネージャーは女マネージャーなのだ。しかも1歳の赤子を持つマママネージャーなのだ。「何があったんですか?」僕はこみ上げる想いをぐっと飲み込み姐さんに聞いた。姐さんは少し時間を置いて回答を投げた。「彼は副業の英語講師の仕事と彼女の事ばかりで本業にまったく集中してくれなかった。そして本業で成果を出そうというモチベーションもパッションも感じなかったわ。それを全部昨日言ってやってクビにしたのよ。」姐さんは言った。姐さんがキレた理由はまあ正当な解雇理由の範囲内であった。たしかに彼は頭がよくビジネスセンスはあったが、営業としてはまったく振るわないし常に受け身の姿勢でノウハウくれくれ新人社員であった。ベンチャー企業でそれだとちとキツイ。定時ダッシュをしていたのも当然僕は把握をしていたが新人は帰れるうちははよ帰れ。鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥。と思っていたが。ベトナム版、織田信長の姐さんはそれを許さなかった。「鳴かねえホトトギスはこうやって殺すんだよぉお!」かくして新人男性社員は会社に来なくなってしまった。社会主義のベトナムで新人ながら副業を隠さず定時ダッシュして英語講師をする彼と、資本主義の日本で「マネージャーになんてなりたくないです。働きたくないでござる。」と言っていた20代前半くらいの自分を重ね。一体、教科書で学んだ資本主義の本質はどこで失われたのか。と思いを馳せながら今日もPCを閉じようと思う。ベトナムの最も暑い時期である6月が明日からはじまる。ちなみに僕たちチームはクビになった男のビジネスアイデアで勝ち取った豪華夕食へ行く。もちろん彼を除いたメンバーで行く。どこで彼の解雇をメンバーに打ち明けたらいいのか三十路中間管理職は悩むのであった。[所要時間30分]