『社長失格』板倉 雄一郎著/手に汗にぎるリアリティ、経営失敗のケーススタディ

創業から倒産までの壮絶なストーリー

株式会社ハイパーネットは、一九九七年一二月二四日、クリスマスイブに裁判所より破産宣告を受けた。負債総額約三七億円。そしてぼく個人も九八年一月二三日に破産宣告を受けた。いわゆる自己破産だ。負債総額二六億円。そのほとんどが会社の借り入れの個人保証である。  残されたのは膨大な時間だった。ぼくは、自分が起業してから倒産するまでの詳細な記録を残すことにした。以来一〇カ月ようやく書き上げたのが本書である。

「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが、1本の小説や映画を見終わったような感覚です。新進気鋭のインターネットベンチャーだったハイパーネット社の板倉氏が創業して、会社を倒産させるまでにどのような道のりを歩んだのか。その記録をまとめています。日本にはあまり例をみない淡々と事実を書き下ろしたリアルなレポートですが、場面が頭に浮かんでくるような読みやすさがあります。

甘かった。

それは三月も下旬のことだった。  

ぼくは新しく始めたハイパーシステムOEMの成果の報告と以前から話の上がっていた住友銀行と提携予定のサービスについて話すため、国重さんを訪問した。  

このビルのこの部屋にいったい何度通ったことだろう。ぼくは支店長室の応接で待っていた。  

一〇分後、国重さんが忙しそうに部屋に入ってきた。

「どうもおせわになります」いつものように挨拶をして話しはじめようとすると、国重さんが慌ただしく切り出した。

「あのね、板倉くん。あの融資の話、だめなんだ」

倒産理由の一端となった住友銀行からの資金の引き上げのシーンはまさに板倉氏の気持ちになって国重さんと会話をしているような、「ああ、もう終わりだ倒産だ」と手に汗にぎって読んでしまいました。(結局倒産するストーリーなのはわかるのですが)

僕が今ベンチャー企業の経営陣をやらせてもらっているというのもあるのですが、資金繰りの問題や数多くの企業との一見おいしそうなコラボ案件(というと軽いかな?)がことごとく始まらなかったり失敗に終わったりするのは大きく頷けるポイントでかなり勉強になりましたね。

倒産までいったら経営失敗ですが、それを包み隠さず書いてくれた板倉氏には感謝です。

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